ドクターインタビュー

手打診療所(下甑島)所長@齋藤学先生インタビュー

今回はDrコトーの島で瀬戸上先生の後を引き継いだ齋藤 学先生にインタビューをさせて頂きました。

また、先生はこのたび、新刊書「へき地医療をめぐる旅ー私は何を見てきたのだろうか」を出版されました。

下甑島に赴任されてから数か月の間にどんなことがあったのか、どんな発見があったのかを聞いてみました。

先生が、鹿児島県薩摩川内市で記者会見をされてから4か月以上が経ちますが、その後の島での様子を伺えますでしょうか。

一言でいうと濃いですね。歳をとるとあっという間に時間がすぎていく中で、時間の流れが遅く感じます。「もう、一週間が終わってしまった」と言う感覚がなく、小学校に入学した一年生の頃に戻ったかのような、ゆったりとして時間が流れる不思議な体験ですね。

やはり、人と人とのつながりの濃さが関係しているのでしょうか。

そうかもしれないですね。

神奈川にいる時には、コンビニで携帯電話の支払いをしたり、ガソリンを入れにいくなど、便利になるために忙しくしていたような気がするのですが、こちらでは車に乗る機会も少ないですし、スーパーも一軒しかありません。

道を歩けば、いつも知っている人に会うという点においては濃厚なのかもしれないですね。本当に毎日、同じことの繰り返しなのですが、時間が経つのは遅いですね。

島では、奥様との時間もゆっくり取れるのではないでしょうか。

そうですね。朝、畑の草をむしる、自転車で買い物をする、海へ入るなど当たり前のことを楽しませてもらっています。

島への赴任と同時にコロナが広がりましたが、かなり大変だったのではないでしょうか。

こちらへ来た時は、とても慎重になっていましたね。すぐに電話診療を始めました。本当は、オンライン診療をしたかったのですが、島には光回線が届いていないので。みなさん、声を聞くと元気そうでしたね。

一方で、新しい医者が来たから見に行こうと診療所まで来てくれた方もいらっしゃいました。5月の末頃からコロナが一旦、落ち着いてきたので電話ではなく一度、診療所へ来てもらうことにしました。そこで初めてお会いした患者さんもいたのですが、電話では元気そうだったのに、こんなに重篤な病気を抱えていたのか、と驚いたこともありました。「電話診療の陰に重症あり」です。

コロナを心配するあまり、診療が疎かになってしまった患者さんもいるのではないかと後悔もしています。

他の離島ではコロナが広まっているところもありますよね。

鹿児島の離島でコロナ感染者の第一号ができたときに診療したドクターは私の後輩でした。彼は忙しい中、丁寧にコロナの感染対策について教えてくれました。そうすることで、下甑島での医療体制をより深く考えることができました。

また、昔からいる看護師さんたちにも助けられました。「もし、瀬戸上先生だったらどうしていましたかね?」ということはよく聞きました。瀬戸上先生は、細かいことは考えず、コロナに感染したならその時に考えようと、大きな流れで物事を見ている先生でした。

Aになったらこうしよう、Bになったらこうしようと、ありもしない事態を想定しては不安となり、緊張の日々が続きました。結果として、勝手に疲れ果てていました。

また、離島では白衣を着て駐車場でPCRをすると、診療所でコロナが発生した!と、すぐに噂が広がってしまいますので、そういった点には注意を払っていましたね。

コロナの影響で、がんなど大きい手術が延期となっていますが、こちらでも影響はありますか?

甑島では、月に1、2人はヘリでの島外搬送があります。ドクターヘリのスタッフもコロナ感染を常に注意しながら、受け入れ態勢をしっかりと敷いてくださっているのでとても助かっています。

かつて徳之島で一緒に働いていた同僚が、鹿児島の救急病院で働いており、彼が救急搬送のグループを作ってくれました。何かあったら24時間連絡ができるネットワークを築くことができたので、とても安心でした。

いつでも受け入れ可能な救急病院と信頼できる仲間が島外にいれば、ギリギリまで患者さんを島で診ることができます。

また、これまで抗がん剤を受けるために定期的に島外で診療を受けていた患者さんたちが、コロナで島外に行けなくなりました。その結果、甑島で診る患者さんが増えました。そのため、私たちに求められる診療の幅も広がりましたし、処方する薬の種類が増え、治療も高度になりました。コロナで島外に行けない分、患者さんたちには、私たちのことを知ってもらえるようになりました。

こういう医者がいるなら島で治療を受けてもいいかな、と思ってくださる患者さんも少しずつ増えてきました。コロナのおかげで、甑島と島外の医療機関との役割分担が少し整理されましたね。

診療所では、ナースや薬剤師などの求人を行っていますが、詳しく教えていただけますでしょうか。

現在、看護師が13名、事務が5名、そして調理場と介護の方が若干名と全部で30人弱が働いています。職員が高齢化していることもありますが、ドクターが2人になったので相対的に、看護師さんが忙しくなりました。外来が1ブースから2ブースに増え、患者さんも増えたので毎日、てんてこまいです。

看護師さんたちも家に帰ると疲れて何もしないということもあるようです。まずは、その労働を軽減することが一番だと考えています。彼女たちの仕事ぶりを見ていると、その半分以上は薬の管理だということがわかりました。

患者さんが増えたため、看護師が薬剤庫へ行って薬を調剤し、患者さんに薬の説明するので、薬剤師の確保が急務だと考えています。また、リハビリのスタッフの確保も大事ですね。やはり、高齢の方々がひとりでも生活できる環境を整えることが非常に大事だと日々感じています。

生活習慣病の患者さんも多いので、管理栄養士も必要です。こちらはオンラインで対応できないか、検討しています。

新刊が出ると伺いましたが、そのきっかけについて教えてください。

元々は、本を出すつもりは全くありませんでした。

しかし、オーストラリアで出会った私より10歳年下のドクターがいるのですが、初めて会った時にオーストラリア周辺の医学部のない島で若い医者を育てるようなプログラムを構築したいなど壮大なスケールの話をしていたことに感化され、彼と交流を持つようになりました。

彼は、私に2つのことを話してくれました。そのひとつは「大学院で博士号を取った方が良い」と。将来、自分が取り組んでいることのスケールが大きくなると、大学で働く立場でなければ物事を変えられなくなる時が来るからという理由です。

そして、もうひとつは「広めるために本を書いた方が良い」ということです。

みんなが世界中へ行けるわけではないので、私の経験を知り、体験できるような本を書いた方が良いと言われたのがきっかけです。

私は、ゲネプロの活動を行う中で、「一番良かったことは何ですか?」と聞かれたなら、インスパイアされる人に多く出会えたことだと思います。現場で医者をやり続けていたら出会えるチャンスは少なかったかもしれません。人生の幅を広げてくれた仲間に出会うことができました。

 

ゲネプロの活動も含めて、これからのビジョンをお聞かせください。

確かに、コロナで国内外の出張は減りました。その分、自分の足元を見つめる時間が増え、診療に集中することができるようになりました。

私自身が個人的に興味を抱いているのがバーチャルワークショップです。ウェビナーという形で週に一回、オンラインで行なっているのですが、ウェビナーだと知識の伝授しかできず、どうしても手技の教育には限界があります。

へき地や離島では、ある程度の手技力が求められます。その手技力を、オンラインでどうやったら上手く教育できるのか、手取り足取り教えられるような形を模索してみたいですね。

また、オンラインで診療ができるようになれば、ひとりの医師が24時間、365日対応する必要もなくなり、上甑島と下甑島の医師たちで協同して、オンライン当直が実現できないか、と想像を膨らませています。何かあった時にはまず、オンラインで診察をし、対面の診察が必要と判断した場合のみ、その地域の医師が呼び出されるという仕組みです。そうなれば、医師の負担は大分、減ると思います。

最後に、読者の方へメッセージをお願いします。

私の投稿をシェアしてくださるなど、決して顔は見えませんが、多大なサポートをしていただいているという安心感があります。とても頼りにさせてもらっていますし、とても嬉しいです。

まとめ

淡々と島の医療に貢献され、日本の離島医療の推進に変わらず関わっておられるのを拝見すると自分の悩み事なんてほんと小さいことだと分かります。

逆に取材をさせて頂き、元気づけられている気がしました。

齋藤先生の活動については今後も随時、レポートしていく予定です。

齋藤先生、お忙しい中、取材のお時間を頂戴し、ありがとうございました。この場をお借りして厚く御礼申し上げます。

関連サイト

手打診療所

http://www.city.satsumasendai.lg.jp/www/contents/1159770324046/index.html

ゲネプロ

https://genepro.org/

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