今回は、羅臼町の鈴木副町長にお話をお伺いする機会をいただきました。
北海道の北東、オホーツク海に面している羅臼町は、豊かな自然や美味しい海の幸に恵まれた土地です。
しかしながら、多くの離島やへき地と同様、人口の流出が止まらず都市部と比較して十分な医療を受けにくいという現状があります。
羅臼町が現在、抱えている問題とは?そして、町の魅力についても語っていただく貴重な機会となりました。
羅臼町の人口や平均年齢について教えてください。
現在、人口は6,200人ほど、高齢化率については28%くらいではないでしょうか。比較的、人口は多いかと思いますが、毎年100人程度が減少しています。その背景として、羅臼町の主な産業が漁業であり、一次産業が主であるということがあげられます。7、8割が漁業関係者で、漁師やそれを買う加工屋さんの割合が高いですね。
これは羅臼町に限ったことではありませんが、いまは日本各地で資源の枯渇が叫ばれています。水揚げ量も落ちてきていますし、全体的に漁業の人口が落ち、町外へ人口が流出していることも否めません。
年老いてきたこともあり、地方へ移住した子供達のところへ身を寄せるといった方も増えてきていますね。
羅臼町の医療環境について教えてください。
羅臼町には現在、知床らうす国民健康保険診療所という14床を有する医療機関があります。歯科診療所については2軒あり、そのうちの1軒は休止しています。
ちょうど、10年前になりますが、羅臼町には48床の町立病院がありました。しかし、医師や看護師不足で成り立たなくなり、医療崩壊に近い状態となりました。加えて、赤字も6億7千万円あったため、このままでは病院の維持が難しいということで止む無く、診療所にしたという経緯があります。その診療所は無床で尚且つ、医師が1人しかいなかったこともあり、夜間の救急も受け入れられず、日中の外来のみ行っていました。
このような状況について、町民に理解を求める代わりに、70kmほど離れた中標津町にある町立病院との連携を取ることにしました。そこには、管内の中核病院として機能している町立中標津病院があります。飛行場も備わっていますので必要に応じて、夜間の救急患者等の受け入れをしてもらっていました。
そういった状態が何年か続き「やはり、なんとかしなくてはいけない」ということで町としては、高規格救急車を3台用意し、救急救命士を9名揃えて、対応にあたっていました。
それが2、3年続いたのですが、平成24年にはもう町立病院も古くなっていたため、建て替えをしなくてはならないということに思いを寄せていました。新しい診療所を建てるにはまず、借金を精算しなくてはならないということで、職員を全部集めて経緯を説明し、給与を10%ほどカットすることで借金を整理することにしました。
また、隠しても仕方がない状況でしたので、町民に対して説明に歩いたのですが、本当にいろいろなご意見をいただきましたね。ですが、本当に有り難いことに、診療所建設にあたってたくさんの寄付をしていただきました。町内外を含めて、2億9千万円ほど集まったのです。そうして、町民から寄付も募りながら14床を有する新しい診療所を建てることができました。
当初は、19床でという思いで設計をしていたのですが、現在、指定管理者として運営していただいている法人の理事長と話をして、色々な意見を取り入れながら現在のスタイルになりました。診療所には14床のほか、4床の透析治療が受けられる施設も備わっています。これまでは、透析が必要な方は中標津や釧路まで通っていたという経緯もあるものですから地元で治療できるのが一番いいよね、ということでそちらも取り入れています。
診療所には、どのくらいスタッフがいらっしゃるのですか?
医師に関しては、常勤医は1名です。そのほか専門外来として、循環器内科や婦人科、皮膚科、整形外科や脳神経外科、消化器内科があり、月に1、2回、それぞれの先生に来ていただくという診療体制を取っています。
また、看護部には総勢24名おり、その内訳は正看護師が9名、准看護師が6名、看護助手が6名、医師付きのクラークが3名です。実は、その中に羅臼町出身はおらず、地方出身の方ばかりで構成されています。
診療所ではリハビリも行なっており、そちらについては理学療法士が1名、作業療法士が1名、助手が1名ですね。そのほか、放射線技師が1名、臨床検査技師が2名、臨床工学技士が1名、事務が5名という人員で平成29年度は運営していました。
直営ではこれだけの人数を揃えることが難しく、法人でなければできないことですので、本当にありがたいと思っています。
これだけの人口を、唯一の診療所でカバーする難しさは感じていませんか?
外来診療となると、待ち時間の問題もあります。救急搬送があればそちらも診なくてはならないとので、さらに、待ち時間が長くなるということもありますが、釧路や札幌に出て診療を受けることもたやすいことではないので、多少の我慢は仕方ないかなという形で町民とは話をしています。
漁業人口の割合が高いので、ケガも多いのではないでしょうか。
そうですね。船を乗っていてケガをすることも多いですね。一旦は救急でこちらに来ますのでそれなりの処置はしますが、手術することができないので救急車で他院へ送ることになります。
患者さんを搬送した場合、中標津までは救急車で約1時間かかります。ドクターヘリであれば、羅臼町の診療所から釧路の市立病院まで30分ほどで搬送することができます。さらに、疾患によっては、市内の釧路赤十字病院や釧路ろうさい病院などへ運ぶこともありますね。
医師や看護師が羅臼町に集まらない理由について、どのようにお考えでしょうか?
ここは本当にへき地医療ですから、生活や学校の面を考えるとやはり、奥様のいらっしゃる方だと、同意がなければなかなか来られないということもあるかと思います。子供の教育などを考えるとどうしても、ここでの常勤は難しいですよね。
現在、診療所にいらっしゃる先生は、どのようなきっかけでこちらへ来られたのでしょうか。
今いらっしゃる先生との出会いは、羅臼町が医療崩壊に近い状態に陥り、診療所として運営を始めた時に常勤の医師がいなかった、というところから始まっています。
なんとか常勤の先生をということで、あちこち駆けずり回りました。東京には北海道事務所があるのですが、そこにいる医療参事を介してさまざまな情報をもらっていました。そうして、最終的に医師獲得に繋がったのは全国自治体協議会からいただいた情報です。
ちょうど、徳洲会グループの湘南厚木病院にいらっしゃったドクターとお会いできることになり、羅臼町の状況をお伝えしたところ、一年間だけという約束できていただいたのです。結局は4年ほど、在籍していただきました。
そのドクターは一度、ここを去ることになったのですが、平成26年にたまたまお会いする機会がありまして。「まだ羅臼町は大変なのでしょう?」というお声がけがあったので「そうです」とお伝えしたところ、「私でよければ、もう一度行ってもいいよ」というお話があり、再び、羅臼町へ来ていただけることとなりました。
長い間お世話になったのですが、ドクターから6月末で退任をしたいとの意向がありました。町としてはもう少し頑張ってもらいたいという気持ちもあったので色々とお話しさせていただきましたが結局、引き止めることはできませんでした。常勤が1人ということもあり、先生も相当、疲弊していたのではないでしょうか。
現在、病院の運営は法人が行っています。とはいえ、開設者は町ですから、何かあった時には一緒に動くという協定のもと、今は新しく来ていただけるドクターを探しているところです。もちろん、今までお世話になった先生にもお声がけをしていますし、先日も良い情報を集めるために東京へ出向いておりました。我々としても、しっかりとサポートしなくてはと思っています。
新しいドクターに来ていただくにあたり、ご専門や勤務形態などの希望はありますか?
基本的に、常勤で診療にあたっていただける先生を探しています。また、ご専門に関しては内科、強いて言えば総合内科に携わられている先生が理想ですね。専門外来については、月に1、2回それぞれの先生に来ていただいていますので。
ドクターの待遇についてお聞かせいただけますか?
待遇としてはかなり良いと思います。ただ、我々が直接話をすると、役場で雇用してくれると思われる方もいらっしゃいますので、面談するときには必ず法人側で実施してもらうようにしています。
運営しているのは法人であり、我々はあくまで開設者という立場になります。
羅臼町の魅力について教えてください。
ここからは北方領土のひとつ、国後島を間近に見ることができます。25kmしか離れていないので、ちょうど目の前に島が広がっていますね。
羅臼町には元島民がおりますし、定期的に北方領土から現島民がビザなし交流で羅臼を訪れ、地元のお祭りにも一緒に参加するなどして交流を深めています。
また、羅臼町では四季折々の風景を楽しむことができます。冬には流氷もきますし、夏にはシャチやクジラを見ることもでき、海外からも写真撮影に訪れる人気のスポットとなっています。羅臼温泉もありますし、ホッケやシャケなどを釣って楽しむこともできます。
冬季間は閉鎖となってしまいますが、知床横断道路では世界自然遺産に登録された部分を通ることができますので、豊かな自然を堪能することができますよ。
グルメに関しては、羅臼の名産を食べて買い物できる「道の駅知床・らうす」があります。そこには、羅臼漁業協同組合の直営店が入っていますので、そこで生魚も買えますし、その上に食堂があるので羅臼の産物を食べることもできます。
羅臼昆布は世界にも有名ですね。羅臼昆布倉庫では、見学も可能です。漁師の方がガイド役として色々と説明をしてくれますので、羅臼町の観光の目玉にもなっています。本当に良いところですので、羅臼町に興味があるドクターであれば、きっと気に入っていただけるのではないでしょうか。
羅臼町というと、冬の過酷さや熊との遭遇率が高いという印象がありますが、いかがでしょうか?
確かに雪は降りますが、そんなに多いわけではありません。しかし、風が強いので、雪が舞って吹き溜まりになり、通行止めになることもあります。
ただ、それほど頻度は多くないですし、吹雪になると通行止めにはなりますが、救急車の出動時など緊急の場合は開発局が主導となって除雪車を先頭にし、優先的に通してもらっています。医療に関して不便を感じることはないですね。
ヒグマは出没することがあります。特に、今年はたくさん出ていますね。漁業での生産活動を行なっている浜にも来ますし、学校の裏山に出てくることもあります。基本的には、世界自然遺産の町なので共存を念頭におき、空砲で追い払って山に帰しています。
しかし、観光客は動物園にいるような気分なので、ハラハラする時も多いですね。絶対に餌をあげてはいけないですし、近くまで来るので車から降りてはいけません。我々も熊だけは気をつけながら生活していますが、難しい側面も感じていますね。ただ、自然遺産にも登録されていますので、共存することを模索しているところです。
<まとめ>
いかがでしたか?
きっと、羅臼町の医療環境と魅力を存分に知っていただけたのではないでしょうか。
知床らうす国民健康保険診療所では、常勤の医師がお一人いらっしゃいますが、6月30日には退職されてしまうとのことで新しく来ていただける方を探していらっしゃいます。
もし宜しければこちらの記事をシェアしていただき、少しでも羅臼町の医療環境に貢献していただければ幸いです。
関連サイト
知床らうす国民健康保険診療所
http://www.kojinkai.or.jp/hospital/hp-rausu.html
知床羅臼町観光協会
http://www.rausu-shiretoko.com
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