ドクターインタビュー

離島医療研究所取材記~日本唯一の離島医療の研究所はどんなことをしているのか?

今回は離島医療研究所の野中文陽先生にインタビューをさせて頂きました。

日本には400以上の有人離島がありますが、その医療機関や医療レベル、連携についてはあまり情報がなく、各地域や広くても自治体レベルで対応しているのがほとんです。

今回の取材はそんな離島医療をサポートするために出来た研究所の詳細について伺う機会となりました。

ぜひご覧くださいね。

離島医療研究所は、日本で唯一の離島の研究所だと思いますが、その成り立ちについて教えてください。

こちらは2004年から始まった組織で、当時、長崎大学の前田教授が寄付講座として長崎と五島市が半分ずつ出資した基金をもとに成立されました。1期を5年として活動しています。

今は5期目に入っているところで、私が助教として赴任したのが2018年10月なので、まだ2年に満たないくらいです。

実は、私自身も2006年の時にこの実習をさせてもらっています。それが離島へのハードルを下げ、結果として、研修先として五島中央病院を選ぶきっかけにもなりましたね。そして、現在はその離島医療実習の担当教員が私ですので、不思議な感じがしますね。

スタッフは私ともう一人助教が当研究所に常駐し、週に一度、長崎大学総合診療科と当講座を兼務している前田隆浩教授が来ています。。

離島医療研究所では、医学部生の離島実習をどのようにサポートされているのでしょうか。

私がいる離島医療研究所は五島市の中核病院である五島中央病院内に設置されています。五島中央病院は、300床以上の中核病院です。離島としては本格的な病院と思います。

これまで、私はどちらかというと2018年までは糖尿病専門医とリウマチ専門医、総合内科専門医として専門医療に携わってきました。そのため、主に離島の専門的な診療の支援を行い、時に総合診療の外来をお手伝いしながら進めています。

一方で、長崎大学の臨床実習、いわゆるポリクリは全員に離島実習を課していますので、週替わりで別々の学生が、6,7人ずつやって来ます。

長崎は非常に離島が多く、実習は上五島や下五島、壱岐、対馬の4箇所に学生が2人から4人ずつ分かれて実習をしています。そのあたりのマネジメントをしているのが私のメインの仕事です。この離島実習では、中核病院や診療所の実習のみならず二次離島へ行ったりヘリ搬送を見学したり、訪問診療を経験することもあります。ときには、住民向けの健康講話を教員と学生が一緒に作り上げることもありますし、医療だけでは足りないということでデイサービスや訪問介護など福祉的な実習も取り入れています。施設や行政など様々なところに協力していただいているのですが、最もすごいと感じているのは、医学部と薬学部、看護師や保健師を目指す学生がみんなで研修をしていることですね。

ポリクリが終わった後は、6年生が高次臨床実習として1か月×6ターム、臨床実習でローテートした診療科の中から好きな実習先を選んで行くことになるのですが、その中で離島を選ぶ学生が年間20名くらいいます。

つまり、長崎大学医学部には100名を超えるくらいの学生がいるのですが、離島実習で滞在した学生の5、6人に1人は離島が面白いと感じていることになります。

また、1〜3年生の医学部に向けて地域医療セミナーin五島というイベントを行っています。これは、合宿形式のセミナーで、8月の夏休み3日間をそこに当てて実施するというものです。これは長崎純心大学の福祉系学生との共修で行っていることも重要です。

学生時代から、多職種が一緒に学ぶ機会を作り、今後の連携を図っていくことを意図しているのでしょうか。

まさしくそうですね。

いわゆる地域包括ケアや多職種連携をテーマにしていますし、学生もレポートにそのようなコメントを書いてくれています。教育として狙っているところはありますね。

非常に画期的だと感じているのは、長崎大学医学部と総合福祉大学である長崎純心大学の学生が50人ほど集まって、ワークショップをしていることです。

症例は学生実行委員が作成したものを私たちが助言しながら作っているのですが、例えば、認知症でインスリン管理ができなくなった高齢の患者さんや、働き盛りの中年男性だが脳出血になり麻痺が残っている患者さんなど。ワークショップに福祉系の学生が入ることで、国民健康保険や障害年金の視点から話をすることもできます。

一方、医学部生は、血糖コントロールやインスリンの使い方について考察を行い、一人の患者さんに対して多職種の介入によってどのようなケアプランが考えられるのかをテーマにしたセミナーです。今回は、新型コロナウイルスの関係で半分はオンラインにて開催するいわゆるハイブリッドオンラインでセミナーを開催しました。

離島を希望されている学生が多い印象を受けますが、何か理由などあるのでしょうか。

詳細はわかりませんが、一般的には総合診療的な視点を持った学生が選んでくれているのではないでしょうか。また、離島における様々な施設の方があたたかく見守ってくれていることも大きいと思います。

病院によっては、本当に学生教育に熱心なところもありますし、二次離島での訪問診療というのは学生の中でかなり印象に残る経験だと思います。中には、高次臨床実習で「この1か月は下五島で、来月は上五島に行ってきます」という学生もいるくらいです。

実習に関しては長崎大学と関連の深い佐世保市などの病院に加えて、離島も選ぶことができます。ある一定の割合では、知り合いや先輩がいるからという理由やマッチング次第で考えている学生がいますが、離島を選ぶ場合、自分も診療にしっかりと関わりたい気持ちがあるなど、必ずしも先輩とのつながりばかりではないような気がしています。

地域枠の学生が、特に多く離島を選んでいる多いという印象はありませんね。奨学金をもらっている場合は、卒後に離島やへき地の病院に枠があるので、そこへ行かなくてはいけないのですが、それを加味しても普通枠での学生と同じくらいだと思います。

先生がドクターになられたきっかけについて教えてください。

決して、医者の家系ではなく、むしろ大学へ行っているのは私くらいです。そのような感じなので何か制約があったわけではないですし、最初は学校の先生になりたいと思っていた時期もありましたが、。いまいち進路が決まらず、何となくうけた現役時の大学には不合格浪人が決まってから色々と考えましたね。人の人生に深く関わりながらできる人生って何だろうと考えた時に、命や健康というのは大きなキーワードになるかなと感じました。

そうして、進路指導室を訪れた際にちょうど募集要項応募用紙があり、長崎大学医学部へ行ってみようと思ったのがきっかけです。やはり、人と深く接する職業ということで、魅力を感じました。

なぜ、糖尿病やリウマチの専門医を選ばれたのでしょうか。

私はもともと、学生時代は血糖コントロールや血圧コントロールでは病気は治らないのではないかという気持ちがありました。血液内科で、白血病のガン治療をしたいと思いながら研修医として五島中央病院へ来たのですが、その時に糖尿病やリウマチ分野の医者は派遣されていなかったのです。

研修医1年目の時に第一内科(リウマチ膠原病内科や内分泌代謝内科が含まれる医局)で、ある程度は研修をしていた状態で2年目の時に五島へ行ったこともあり、

第一内科の先生との窓口になったような部分もあり、何と無く自分には役割があるのではないかと錯覚したのかもしれません。

また、糖尿病やリウマチは、手術が終わってもかかりつけ医として長く付き合っていくイメージがあり、それも魅力的だと感じていました。

実際に、佐世保の病院に9年間いたのですが、それだけ長くいると、糖尿病で最初に受診された方が途中でリウマチを発症して結局、大腸ガンでなくなってしまったり、高校1年生で初診だった方が進学先を卒業して挨拶に来たりしてくれました。

また、妊娠出産を目指していた膠原病の方が、なかなか症状が落ち着かなかったけれども無事に出産したなど、患者さんの人生と長く付き合えることに魅力を感じ、結果的に第一内科を選んでよかったと思っています。。

当初、それほど離島に関心のない学生であっても、実際に行って印象や意識が変わることはあるのでしょうか。

離島実習の一部に外来実習を行っていますが、患者さんに対し、学生は自己紹介からはじまり、適切に問診を行い、患者さんに「待合室でお待ちください」と伝え、実際にカルテに記載してもらうなど、体験型のものにしています。

また、訪問診療では一緒に患者さんのご自宅に上がらせてもらって処置や観察を行いますし、ケア実習では一緒に入浴介助もします。

そうすると、介護福祉士の仕事は大変だとわかりますし、現場を見ることで「こういう生活をしているから、この処置は難しいかもしれない」あるいは、患者さんが非常にへんぴな場所、環境の悪いところに住んでいることを念頭に置いて診察をする心が芽生えたりします。

また、問診をスムーズに取るためには色々と勉強をしないといけないなど色々なことを感じ取って、レポートに書いてくれる学生もいました。

離島実習に嫌々来ているような学生も一定数ではいますが、それでも意外とみんな嬉しそうに帰っていく印象は受けています。離島での研修が楽しみできましたという学生もいますね。

長崎におけるコロナの状況などのような感じでしょうか。

それほど流行っている感じではありませんが、クルーズ船が入ってきた後から患者さんが増えてきました。。壱岐や下五島、上五島でも患者さんが発生しました。

離島の患者さんをどうやって搬送するのかという課題は常に考えていますね。

コロナの影響で実習ができないとのお話ですが、大学での活動も制限がかかっているのでしょうか。

そうですね。かなり制限がかかっていて、すべてオンラインで講義をしています。臨床実習もすべてオンラインで、9月後半に入り、ようやく対面での離島実習が再開されるかもという状況です。

オンライン講義では、私が模擬患者さんを提示しています。模擬症例に対してどのような介入ができるかについてオンラインで話し合う演習や、保健所所長やへき地診療所の先生に協力していただき、一緒に講義を配信することもあります。

今後のビジョンについてお聞かせください。

私は主に、教育担当ですが、研究にも取り組んでいてこれは今後も継続していくと思います。

今は、主に遠隔診療の研究を行っています。医師が患者さんを診察する際、スマートグラスという特殊な眼鏡をかけて診察をすることで、診察室で医師が見たものや声を、長崎大学病院にいる専門医が一緒に診るという仕組みです。専門医は診察医にイヤホンを通じて診療の助言を行います。いわゆるDoctor to Patient with Doctorという方式となります。また、マイクロソフトの技術者や長崎大学病院の医師と協力しながら、関節リウマチの遠隔診療の構築を行うということが今年のテーマです。

また、二次離島の診療所はいくつかありますが、医師が常駐していない診療所もかなりありますので、ドローンでつなげてはどうかと考えています。

出張診療所で採血したものをドローンで運んで解析をして結果を送る、あるいは薬を運ぶなど。その時に薬だけではなく、島の人が必要とするお弁当や日用品も一緒に送ることもできますよね。

こちらは、主にもう一人の助教が担当しています。

また当研究所では以前よりコホート研究を行っています。例えば、住民健診で同意を得た住民に対してをしてリウマチの自己抗体(抗CCP抗体)など追加の検査項目を測定したり、動脈硬化の検査(頚部超音波検査など)を行い、住民健診からに何らかの研究テーマを取り入れています得られたデータは説明会で住民の方に還元したり、各研究者が論文にまとめることで社会に還元しています。

歯学部であれば、近所付き合いや余暇活動は舌圧と関係があるのですが、さらに舌圧は嚥下機能と関係があります。そのような相関について研究したものがすでに長崎アイランドスタディという名前で成果をあげています。

離島なので住民の移動がなく、このような研究は今後も続いていくでしょう。いわゆる、離島というフィールドを生かした地域疫学研究が今後のテーマですね。これは、日本の未来にもつながると考えています。

私は今、離島医療研究所に所属をしていますがが、将来的にはもっと診療に携わりたいですね。どうしても、離島は総合診療やプライマリケアが重要だとされます。個人的にはそちらも重要ですが、本当の専門医療をできるようなチームに育てることが大事だと思っています。私はリウマチ膠原病や糖尿病が専門ですが、五島で新たに糖尿病診療チーム作りをすすめていることです。

まとめ

離島医療を通じて、多くの医療系の学生がつながり、協力して仕事をして、気付きを深めていくというのには本当に痺れました。このような取り組みが全国の医学部でも出来ると今、現場で起きている問題は相当減るのではないかと感じました。

野中先生、お忙しい中、取材に応じて頂き、誠にありがとうございました!

この場をお借りして厚く御礼申し上げます。

参考

離島医療研究所

http://ritouken.com

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