ドクターインタビュー

麻酔科医 丸古和央先生インタビュー!(奄美大島)

先日の奄美大島取材で麻酔医として活躍されている丸古和央先生にお話を伺いました!

丸古先生は、自ら設立した株式会社マルコポーロから派遣された医師として飛び回っていらっしゃるほか、離島医療の問題点を解決しようと様々な取り組みをされていらっしゃいます。

そんな丸古先生が、奄美大島に住むようになったきっかけとは…?

他の離島地域においても参考になりそうな話題がふんだんに詰まったインタビュー、どうぞご覧ください。

●お医者さんになられた理由をお聞かせください。

私の父は医者だったので、そういう風に育てられた部分はあると思います。
また、小さな頃から私のこと見ている親からの「会社の組織に入って、人に使われることには向いていないのではないか」という意見も影響しているかもしれません。

しかし、思いとは裏腹に学業は伴わず、中学校まで全く勉強をしたことがありませんでした。高校入学から2年の途中までずっとビリで、生徒が510人いる中で500番くらいでしたね。

高校3年生になったとき、これはひょっとして勉強しないといけないのではないかと気付いたのですが、それまでやったことがないので勉強の仕方が全くわかりませんでした。

そのため、予備校に入って授業を受けた結果として、鹿児島大学の獣医学部に入ることができました。当初は医学部へ進もうとは考えていなかったのですが、教えているうちに芽が出てきて、塾で教えながらセンター試験を受けて医学部へ入学することができました。
それがちょうど、獣医に入ってから2年後のことです。

●医学部に入り、数ある診療科の中で麻酔科を選ばれた理由をお聞かせください。

医学部の5、6年生の頃は、形成外科に行きたいと思っていたのですが、鹿児島には形成外科がありませんでした。さらに当時、形成外科というのは、外科に携わった後のスペシャリティという認識でもありました。今は違うのかもしれませんが。

そのため、形成外科に入局したとしても、必ず、外科研修が数年あります。そうなると、外科研修の部分を鹿児島で済ませて、そのあとに形成外科に行くことになりますよね。

もともと、鹿児島大学の外科は、第一外科や第二外科という形で分かれていましたが、ちょうど私の頃は、消化器外科や心臓血管外科といった臓器別に再編されたところでした。私の父が第二外科にいましたので、その息子である私も第二外科にという話だったのですが、その再編によって第二外科が心臓血管外科となり、心臓血管外科専門の教授が外部からいらっしゃることになりました。

私としては、外科に入った数年後には形成外科という流れを考えていたのですが、望み通りに進まない可能性が出てきたので、先生や先輩のアドバイスで麻酔科へ進んだのがきっかけになりましたね。

麻酔科が長くなりましたし、また一からというのも難しくなってしまったので、そのままという感じです。

●先生は鹿児島のご出身ですが、奄美大島へ来られたのには、どのようなきっかけがあったのでしょうか?

麻酔科にいたのですが、時期がくると大学院へ行くことを勧められます。医局のルールなので従わなくてはいけないのですが、私の人生の中で試験管をいじったりすることは、何の役にも立たないと感じていました。反対に、医療経営や医療政策をやりたいと思っていましたね。

そういったことを学べる場所は鹿児島にないのですが、国立大学なので鹿児島大学の大学院に入りながら国内留学という制度を使うことができるのです。授業料は鹿児島大学から払われ、国立大学であればどこでも行っていいという制度でした。

そして、私個人に加えて、医局の先生も留学先を探してくださり、ちょうどお互いの意見が一致したところが九州大学でした。

ちょうどその頃、九州大学は専門職大学院ができたところで、それを立ち上げた先生のところになります。そこを紹介していただき通っていたのですが、麻酔科が人手不足でまわらなくなってきたため、次第に福岡に通うことが難しくなってしまいました。

そんな中、私の妹の旦那、義理の弟が鹿児島大学出身の歯医者なのですが、福岡で修行した後に鹿児島へ帰ってきたいという話がありました。しかし、鹿児島市には鹿児島大学があるので歯医者がたくさんいます。開業するにしても、とても厳しい状況でした。

すると、奄美の業者の方から、今まで歯医者を開業していた方が亡くなって場所が空き、後継者を探しているという話があったので、義理の弟を連れて現地まで見に行きました。義理の弟としては、やりたいけれども人を雇って資金を調達することに対して難しさを感じていたので、それであれば私が出資するから始めたらいいと勧めたことがきっかけです。

奄美大島には麻酔科もないので、麻酔もかけてほしいということでした。そのため、金曜日に奄美に来て、金曜から火曜まで麻酔をかけて鹿児島市に戻り、大学の当直をするという生活を2年くらいしていました。だんだんと、行き来もめんどうになり、こちらに住んで10年ほどになります。

歯科医院については、最初は私が経理などをしていましたが、うまく回り出したので義理の弟に譲りました。

●株式会社マルコポーロを設立した経緯について、教えてください。

麻酔科医として複数の医療機関を行ったり来たりしていたのですが、麻酔をかけていると「来週の火曜日に麻酔をかけて欲しい」という電話を取れないことがあります。そのため、依頼を受ける部分については妻に任せていました。
そういったことが頻繁にあったので色々と調べてみると、派遣業というのはいろいろな縛りがあるのですが、へき地に関しては医師派遣が違法ではなく、合法だということがわかりました。それならば、会社組織にして妻に給料を出そうということが最初のきっかけです。

やはり、医療機関というのは派遣禁止が原則となっていますので、労働基準監督署に届け出をした際、窓口の係の方に違法だと言われたのですが、かけあって上司のほうに話がまわって許可が下りたという経緯があります。
あくまで、へき地は医師が不足しているので派遣することができるのですが、看護師については難しいようですね。

●今回、一般社団法人アンマを設立されて素晴らしい仕組みを考えられましたが、この仕組みを思いついたきっかけについて教えてください。

設立のきっかけは、アンマの代表理事をされている桂先生になります。
もう少し南の大島郡瀬戸内町で何年も開業されている先生なのですが、その地域には5、6人の医師がいて各医療機関を守っています。
でも、それらの医療機関に救急車で患者さんが運ばれてくるかというと、軽症の場合だけで、手術や大きな検査が必要だという場合には救急車で県病院まで行くことになります。

病院には当直を置かなければなりませんが、そのような状態であれば、複数の医療機関で1人がぐるぐる周って当直を行えば事足りるはずです。
しかし、見渡してみるといづはら医院のみが民間で、あとは瀬戸内町へき地診療所という公立の自治体病院と南大島診療所であり、みな組織がバラバラです。特に、公務員の先生が自由に動くことはなかなか難しいものです。

ですが、一昨年に交付されて今年施行されることになった認定制度、地域医療連携推進法人に認定されると、ある程度公的な仕組みで動くことができます。そして、公務員の先生にもお願いすることができるのではないかと、桂先生が以前からおっしゃっていました。

桂先生は「ここにずっといるつもりなので、自分の病院は売却して次は公務員でもいい」ということでしたが、民間のものを自治体が購入することは一筋縄ではいきません。そのため、地域医療連携推進法人制度に関する法律が通ってから、桂先生ご自身で徳洲会や町長、民医連の事務長や院長のところを訪れて「もし、こういう仕組みで一つのグループになったら入ってくれますか?」と聞いてまわっていました。

そして、どこも悪い返事ではなかったので、返事を聞いた状態で私のところに相談に来られました。

法律が通ったのが去年の9月で、桂先生から相談をいただいたのが10月。そして年が明けた1月には、役所の方や看護師の方々などを集めて話をすることになりました。そうすると今度は、役所の方がそれに予算をつけようということで、総務省の地方創生の事業で予算を3,600万円取ってきてくれたのです。
とりあえず、昨年は連携推進を作るということが一番の課題でしたね。実際に何か行うときには今年もお金は必要なのですが、どうしても自治体が入っていると時間がかかってしまいます。だから、今年は準備のところで少し足踏みをしている状態です。

●現在は、どのような活動をされているのでしょうか?

今年は何が動いているのかというと、ゴールデンウィークの輪番や代診などは少し動き出していますね。来年度からは、いくつか予算が取れていることもあるので、もう少し進むと思います。

具体的には、島の保健室事業と助産師に関しては、県から予算がついています。

マルコポーロについても、儲けようとして作った組織ではないので、地域のためになるのであれば手放していいと思っていますし、民間がやるよりも連携推進法人といったある程度公的なところが運営する方が、もっとまわると感じています。

●今後は、遠隔診療も積極的に取り入れていけるのではないでしょうか。

そうですね。保健室事業に遠隔診療の仕組みをつけることを考えています。
島の端のほうには看護師や診療看護師を配置し、遠隔診療でつなげるという形ですね。また、妊婦健診と遠隔診療の組み合わせも視野に入れています。

予防医療の部分については、長崎から診療看護師の方に来ていただける予定です。診療看護師の業務は一部、研修医とかぶる部分があります。国立病院などでは採用枠が多いのですが、研修医もたくさんいますので何かをしようと思った時に重複してしまい、診療看護師側が譲る傾向があります。
資格は取ったけれど活躍できていないという方が多いので、働ける場としては離島がいいのかなと感じています。
そのほか、島の保健室事業では無医村に保健師さんや看護師さんがいますので、その方々に健康相談を含めた予防医療の役割をしっかりと担っていただければいいですよね。

●財源は、どのように確保されているのでしょうか?

実際に、財源が確保できていないので動けない部分はあります。
財団法人などある程度、公的なものは配当禁止なので、企業と提携するのはいいのですが一方的になってしまいますね。何かを返すことができませんので、そこが難しいところです。

例えば、利益は渡せませんが、ショッピングモールのようなものを作って医療スペースを確保し、人間ドックや医療と連携したスパやエステを周辺でやっていただく分には構いません。
そういう面においてコラボするのはできると思いますが、資金を入れるというのは難しいので、どうしても自治体のお金や自分で稼いでという形になってしまいますね。

現在、瀬戸内町で行われている巡回診療は年間6千万ほど赤字を出しています。異なった組織が集まっているので運営の効率が悪くなっているのですが、これについては私自身、お金の流れを変えるだけで上手くできるのではないかと感じています。
消防や警察などは出来てから一度も黒字になったことがないのですが、地域のためには必要ですよね。住民がいるところには必要な組織なので、そこには行政がお金を出しています。

医療に関しては、健康保険制度があるので直接、お金をつぎこむような制度はありません。それでも、やはりへき地巡回バスなどは一般財源から支出しているので、その分を法人のほうに流してもらえれば上手くいくのではないでしょうか。

●赤字を出していても、島民の医療を考えたときには削れない部分ですよね。

6千万円の赤字がありますが、実は、外来にかかっている費用が、瀬戸内町から奄美市に5億円ほど動いています。患者さんがわざわざ、奄美市へ通院しているからなのですが、その中には耳鼻科など瀬戸内町にはない診療科だけではなく、糖尿病や高血圧などの疾患についても奄美市まで通っていることがわかっています。

昨年、総務省から取った予算の中でコンサルに委託をして、レセプトを全てチェックしたので、瀬戸内町から出ている金額についても把握しています。瀬戸内町から動いている5億円のうち、10%でも戻すことができれば赤字は解消できますよね。

5千万の公共事業や、1千万の公共事業を5つ取ってくることは難しいものですが、5億円のうちの10%だけこちらへ引き戻すことはあまり難しくないと考えられます。そのため、瀬戸内町では今年の1月から、医療で財政を立て直そうということで取り組んでいるようです。

●先生ご自身、最近まで体調が優れなかったようですが、いまはどのような状態でしょうか?

病気自体は以前から認識していたのですが、腎臓のことなので治ることはありません。どこかの時点で透析にはなるだろうとわかっていたのですが、その時期だけがまだ読めませんでした。

1年前は、少しだるいという程度でしたね。痛みは伴わず、だるいというのが一番の症状でしたので、いよいよというときに病院へ行こうと考えていました。

今年の8月中旬頃、鹿児島にいたときに大分だるくなってきて、階段を上っていても息切れしてしまうような状態でした。透析だけであれば、親に報告せずに治療を受けようと思っていたのですが、同期の泌尿器の医師に相談したところ、現在は免疫抑制剤も改善され、移植の成績も良くなっているので年齢を考慮したら移植のほうがいいという話になりまして。

さすがに、移植となると親に黙ってというわけにはいかないのでカミングアウトし、そろそろ受診をしようかなと考えていました。

ただ、予定や仕事の引き継ぎなどもありますので、受診は2週間後を予定していたのですが、そこから時間単位でどんどん容態が悪くなっていきました。そのため、奄美に帰ることができず、週明けに病院へ電話してからそのまま、しばらく入院することになりまして。

入院はしたのですが、まだ週の後半には奄美に帰ろうと思っていました。しかし、起き上がらないと息ができなくなってしまったので、すぐに透析をすることになりました。治療がもう少し、遅れていたら息が止まっていましたね。

それでも、もっと前から病院へ行っていればタンパク制限や塩分制限をきっちりとさせられていて、現在も、透析をしなくて済んだかもしれません。でも、好きなように食べることはできなかったと思いますし、私はそれを我慢できないほうなので、結果としては良かったかなと。

●現在は透析をされていますが、今後は腎移植も視野に入っていますか?

来年の2月には、妹の腎臓を移植する予定です。
最初は妻や母で準備をしていたのですが、血のつながりよりも若い方がいいという話になりまして。若い方がいいといっても妹には子供もいるのでこちらからは頼めないと考えていたところ、妹のほうから言い出してくれたので移植ができるようになりました。

いま治療を受けている透析病院には、ちょうど同期が働いています。10年くらい前に、同期の娘さんがアメリカで心臓移植をしたときに募金を手伝い、一緒にアメリカまで行っていたという縁もありましたので、透析について相談した時にその病院での治療を勧められました。

仮に、移植ができなかったとしても、この病院では在宅透析を受けることができます。

在宅透析であれば、1日2時間、毎日透析をすることで効率が良く、普通の生活が送れます。いままでは、病気のことがわかっていたので「何年か後には透析になるから働けないだろうな」ということがずっと引っかかっていたのですが、実際に透析を始めればその考えもなくなりましたね。

●島の人々の健康状態については、いかがですか?

喫煙率は多く、半分くらいが喫煙者ではないでしょうか。ただ、タバコの量を考えると、COPDはそれほど多くはないと感じています。

また、現在、まちぐるみで減塩減酒のキャンペーンを行っています。
昨年は、医療講演会と同時期のお昼の時間帯に、街の飲食店に減塩メニューを出していただきました。1品100円くらいで少しお皿に載せて、ごはんはサービスといった感じです。3品くらい買うと食事として成り立ちますし、減塩でもこんなに美味しいということを認識していただく機会となりました。

地域連携推進法人では先ほど話したように看護師さんの派遣は禁止されているのですが、グループ間の出向は問題ありません。厚生労働省の通達においても、在籍出向を上手く活用して欲しいという話でしたので、それを活用して予防医療の部分から初めていこうかなと思っています。

●その他、考えられている取り組みがあれば教えてください。

いま、顔認証のカメラが普及していますよね。その中で、笑顔診断というものがあるのですが、その時の顔でどれだけ幸せなのか点数化して送るNECのシステムがあります。そのシステムと地域の集まりを組み合わせて「お母さんは元気ですよ」と都会にいる家族に送り、データも集めていこうという計画があります。ただし、実行するには予算が足りないですね。

また、薬局や介護施設、医療機関には、レセプトコンピューターがどこにでも入っています。普段は違う医療機関にかかっている患者さんを診察する時にこちらが何を知りたいのかというと、その方の病名や飲んでいる薬などです。苦しくて喋れない場合などは尚更です。
直近で、いつどこの病院に行ったのかさえわかれば、実は、病名や薬の情報はレセプトから引っ張ってくることができます。外来だけであれば、その日のうちに会計が終わり、レセプトには残っているはずです。この段階で集めることができれば、素晴らしい仕組みができますよね。

こちらは、総務省に応募したことがあるのですが、ここでは人口が少なすぎて通りませんでしたね。

●まとめ

奄美大島の医療を効率的に行うために、一人の医師としてだけではなく、経営面や財政面のことも考慮に入れながら活動されている姿には感銘を受けました。
その行動力もさることながら、先生の熱い思いがあったからこそ、たくさんの人の共感を呼び、協力を得ながら勧めていくことができたのではないかと感じました。

丸古先生、貴重なお時間を頂き、ありがとうございました。この場をお借りして、厚く御礼申し上げます。

 

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